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萩尾望都・73年での雑誌再録


『ポーの一族』オムニバス短編も『小鳥の巣』の発表後、暫く空いた時点にマダ単行本が1冊も出ていないデビュー3.4年目の作家としては異例のことが起こりました。萩尾望都の初期短編が連続して再録発表されたのでした。 雑誌は『週刊少女コミック』など小学館の「少女コミック系」の雑誌3種。再録作品はデビュー作「ルルとミミ」から25作品!

これだけ再録されるとポーによってブレイクされた後に萩尾望都を読み始めた読者でも当時発表された作品の殆ど全てに触れることが出きました。単行本はマダ1冊も出ていない作家の再録、しかも総集編ではなく他社誌の短編を再録するのは空前絶後のことでした。そんなコトをさせるだけの圧力が読者から編集部に掛かったのだと当時は解釈していました。

ところが、「図書の家」のmoyoさんからのハナシによると「私、山本編集長に直接お尋ねする機会があったのです。『なぜこの企画がなされたのか』と。驚くなかれ、山本編集長の『萩尾望都はもっと知られるべきだ』との判断によって企画されたのです!読者からの要望ではありません。その逆だったんです。」とのことでした。

そして思惑どおり、この当時はまだマイナー作家の無名時代の再録によって萩尾望都にはまった人は多かったと思います。既に嵌まっていた僕のようなマニアは必死になって再録された少コミを買い漁ったものです。後で聞くと僕の周辺はあにじゅんを始めヨネヤンなど皆んな同じような経験の持ち主でした。いや!あにじゅんは一緒に北野の古書市へ行ったな(^^)ゞ

だが、『かたっぽのふるぐつ』と『ケーキケーキケーキ』 が再録の中には入っていませんでした。赤い「萩尾望都作品集」も『ケーキケーキケーキ』と『塔のある家』(『かたっぽのふるぐつ』掲載集)だけをマズ買った覚えがあります(^^)ゞ
この20数作品の再録に既に『ポー』や別コミの諸短編で萩尾望都の虜になっていたマニア達は狂喜しましたが、やはり人の子(笑)…再録されなかった『かたっぽのふるぐつ』と『ケーキケーキケーキ』を捜しまわるようになったのです。

その当時は、出版社の紐付きでないファンの手によるマンガイベントの勃興期でもありました。そんなイベントに参加する人たちは高校・大学生が中心で女性比率が高くマニア度も高い為、萩尾望都に関心の強い人たちが集まっていました。またイベントの内容は様々でしたが、その中でマンガ古書の即売や稀覯本のオークションを行なっていたイベントもありました。

そんな状況の中で、74年に行なわれた第3回日本漫画大会(四谷公会堂)の稀覯本オークションに『ケーキケーキケーキ』上下巻が出品され、あれよあれよと言う間に高騰し数万円(当時の大卒初任給程度)の落札価格となったのです。これにはイベントスタッフ(僕も入っていましたし、公式レポートにも、その旨を記名記事にしました。)からも疑問視の声もあがりましたし参加者からの批判も聞こえてきました。漫大関係者が仕組んだことはないと見聞していますが、強いて仕組んだとすれば、即売用に出品されてきた雑誌付録をオークションに回した人かもしれません。当時、僕は古書即売担当でしたが「これはオークションに回すべき」と納得して別に異論は挟みませんでした。

翌年になり、この漫画大会は参加者拒否や警備問題から大きな批判を受け大騒動となるのですが、批判の底流に僅か数年前の雑誌付録が高額で遣り取りされたことがあったことも否めません。裏話としてこの翌年の第4回日本漫画大会には複数の『ケーキケーキケーキ』がオークションに出品されたらしいのですが、値崩れを起こしていたらしいのです(笑)

「らしい」と書いたのは当日、僕も会場に居ましたが批判グループに加わっていた為にオークションを見てなかったのです。この批判グループが中心となって、その年の暮に日本消防会館で別イベントを開いたのが、今に続くコミケの第1回なのですが、それはまた別のハナシとなる

「図書の家」さんhttp://www.toshonoie.net/shisho/hagio/zassi1-1.htmの小学館の雑誌掲載リストから(再)と書かれてあるものをピックアップしました。データの掲載を承諾してくださった「図書の家」さんに感謝します。
掲載年月 号数 掲載P 掲載作品名 枚数 備考
1972年夏72年 夏の増刊フラワーコミック  雪の子(再)   
1972年夏72年 夏の増刊フラワーコミック  塔のある家(再)   
1972年夏72年 夏の増刊フラワーコミック  かわいそうなママ(再)   
1973年4月 週刊少女コミック1973年4/10号 春の増刊フラワーコミック 273花嫁をひろった男(再)   
1973年4月 週刊少女コミック1973年4/10号 春の増刊フラワーコミック 305ケネスおじさんとふたご(再)   
1973年4月 週刊少女コミック1973年4/10号 春の増刊フラワーコミック 337精霊狩り(再)   
1973年4月週刊少女コミック 16(4/15)号 163-178ビアンカ(再)16p 「萩尾望都短編珠玉作1」
1973年4月週刊少女コミック 17(4/22)号 235-246ポーチで少女が小犬と(再)  「萩尾望都短編珠玉作2」
1973年4月週刊少女コミック 17(4/22)号 247-262小夜の縫うゆかた(再)  「萩尾望都短編珠玉作3」
1973年4月週刊少女コミック 18(4/29)号  白い鳥になった少女(再)  「萩尾望都短編珠玉作4」
1973年5月週刊少女コミック 19(5/6)号 145-160みつくにの娘(再)   
1973年7月週刊少女コミック 28(7/8)号 173-ルルとミミ(再)  「萩尾望都初期作品集1」
1973年7月週刊少女コミック 30(7/22)号 201-232すてきな魔法(再)  「萩尾望都初期作品集2」
1973年8月週刊少女コミック 32(8/5)号 157-187クールキャット(再) 31p「萩尾望都初期作品集3」
1973年8月週刊少女コミック 34(8/19)号  爆発会社(再)  「萩尾望都初期作品集4」
1973年9月週刊少女コミック 40(9/30)号 229-259ベルとマイクのお話(再) 31p「萩尾望都けっさくよみきり作品集1」
1973年10月別冊少女コミック 73年10月号  モードリン(再)  「萩尾望都けっ作シリーズ1」
1973年10月週刊少女コミック 41(10/7)号 131-161ジェニファの恋のお相手は(再) 31p「萩尾望都けっさくよみきり作品集2」
1973年10月週刊少女コミック 42(10/14)号 195-218秋の旅(再) 24p「萩尾望都けっさくよみきり作品集3」
1973年10月週刊少女コミック 43(10/21)号 197-228白き森白き少年の笛(再) 32p「萩尾望都けっさくよみきり作品集4」
1973年11月別冊少女コミック 73年11月号 385-42911月のギムナジウム(再) 45p「萩尾望都けっ作シリーズ2」
1973年12月別冊少女コミック 73年12月号 345-もうひとつの恋(再)  「萩尾望都けっ作シリーズ3」
1974年4月 週刊少女コミック1974年4/10号 春の増刊フラワーコミック 205-3月ウサギが集団で(再)   
1974年4月 週刊少女コミック1974年4/10号 春の増刊フラワーコミック 245-毛糸玉にじゃれないで(再)   
1974年12月74年 冬の増刊フラワーコミック 243-322セーラ・ヒルの聖夜(再) 80p 

よく見ると『10月の少女たち』がこの時点で再録できうる作品群の中では漏れています。迷宮76発行の『萩尾望都に愛をこめて』の中で作品紹介があるのは『かたっぽのふるぐつ』と『ケーキケーキケーキ』の2作品で『10月の少女たち』の紹介は省かれています。僕の記憶でも『10月の少女たち』はあの時点では既知の作品でした。

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